英語も話せないし飛行機も苦手、それでも個人手配で海外旅行

交通費嫌い。飛行機は苦手だけどヨーロッパ大好き。空港ラウンジ目的でSFC修行済み。休暇の取れない勤め人。

【屋久島】周遊ツアー3 神秘の世界「ヤクスギランド」前編

2021年(令和3年)8月

 

負傷した足も回復していないのに、無理矢理屋久島行きを決行しています。緊急事態宣言中ですが、一応ワクチンは全員接種済み(言い訳)

前回は世界自然遺産の西部林道を走った話をご紹介しました。

fuwari-x.hatenablog.com

 

ランチのあとは、いよいよ楽しみにしていたヤクスギランドへ向かいます。

車に乗り込むと、一緒にツアーを回っていた女性がガイドさんとあれこれ相談しています。あとで聞いたところによると、私の行きのフライトのように天候調査が入ったという通知があったようです。彼女が予約していたのは最終便。でも、仕事の都合で確実に帰らなければならないので一便早めることを選択したようでした。そうするとツアーはここで離脱しなければなりません。ハイライトなしに帰っちゃうなんて、残念。でも、この話は他人事ではありませんでした。

 

空港近くで彼女を下ろし、次へ向かいます。空港近くからは愛子岳が見えます。地元三岳酒造の「愛子」という名の焼酎があり、愛子さまご誕生の折には献上されたそうです。九州南部は気温の高く、日本酒は工場のような設備を持たない限り自然な状態では作れないので、飲むのも作るのも焼酎です。発酵が進み過ぎるんですね。

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ガイドさんはいなか浜を回れなかった代わりにちょっと見晴らしのいい場所へ連れて行ってくれました。安房川に架かる橋です。この川をずっと遡っていくと、尾之間地区からは行けなかった千尋の滝があります。見える山は愛子岳っぽいけどきっと違う。40座以上ある屋久島、似たような三角形の頂を持つ山はきっといっぱいあるのでしょう。

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下流の方を見れば、安房地区と海が見えます。私たちが泊まっていた地区はおのあいだ(尾之間)、こちらはあんぼう(安房)と読みますが、地名は難しいですね。

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さて。ここからヤクスギランドに向かって標高を上げていきます。トロッコ用の線路が見えますが、現役です。かつて林業で栄えていたころの森林鉄道を今も使用し、登山道にあるトイレなどの維持管理に必要な物資の輸送や、屋久杉の土埋木(「どまいぼく」の話は後ほど触れます)や昔の切り株などの運搬などを行っています。この線路の上は縄文杉へ登るときなどに歩くようなので、やっぱり再訪して歩いてみたい!

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森林鉄道を管理しているのは屋久島電工。ちょうどガードレールと画像が重なっちゃったんですが、第一発電所が見えます。上流にはさらに第二発電所もあるのですが、屋久島は島内で電力をすべて担っているというスゴイ島なんです。もちろん、ここへ行くときも森林鉄道を使います。

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山道を上がっていくと、向こうに種子島も臨めます。曇天とはいえこれだけ見渡せるのに、飛行機が飛ばないかも・・・とは、屋久島はなかなかキビシイところです。

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斜面が崩れているのが見えるでしょうか。2019年、記録的豪雨で登山客が取り残されたときに崩れた山肌です。屋久島は周辺部が堆積岩で、そこを花崗岩が貫いて隆起した島なので表土がとても少ないのです。したがって、森林の木の根はしっかり大地に張っているというわけではないので、大雨の被害は受けやすいと言えるかとも思います。

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ただし、このときの大雨は過去に例を見ないもの。こちらも木々を失って谷間のようになってしまった箇所です。

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多くの観光客が取り残された大雨でしたが、幸いだったのはバスも同様に取り残されたので、雨宿りをすることができたことだろうという話でした。

(そのときの記事を見つけました ↓ )

www.asahi.com

 

ヤクスギランドに到着しました。目の前に見える角が生えているような山は標高1,497mの太忠岳(たちゅうだけ)。ヤクスギランドにはいくつかのコースがありますが、そのうちのひとつから足を延ばすと太忠岳へ行くことができます。角のように見えるのは、岩。傍へ行くとかなり大きな天柱石なのでググると驚くと思います。これもまた魅力的だ~

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ヤクスギランドへ入るには協力金500円を支払うのですが、この日は前日からの雨の影響だったかで、自由見学。よって徴収はナシでした。でも、維持管理に貢献しようと相棒が千円札を入れていました。

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ヤクスギランドは、その「ランド」という名からお手軽な雰囲気が窺えますが、決して侮れない場所です。30・50分コースは遊歩道となっていますが、80・150・210分コースは登山の装備が必要なトレッキングコースです。

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私たちは30分コースをガイド付きで歩くので、概ね1時間ほどかけて回っています。このとおり、よく整備された遊歩道には負傷後の私にはとても助かりました。
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最初の見どころはくぐり栂。左側の根元を見ると木がいったん倒れただろうことがわかります。屋久島ではそれで木が死なないんですよね。表土がないということは、栄養が足りない。逆説的に言うならば、腐敗する要素もまた足りないということになります。(このくぐり栂は倒木が原因ではなかったかも・・・記憶が不確かデス)

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こちらのヒメシャラを見てもわかりますが、根こそぎ倒れているんだけど、そのまま生きちゃう。表土が少なく栄養がない、いわば水だけで生きているので、倒れても決定打にならないっていうことなんでしょう。

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こちらは倒れた木の上で生命を育む植物たちです。土の上でなくても苔が生え、芽が育ち、木の上でもこうして生きていくのです。

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そんな中でヤクシマスミレも咲いていました。こうして自然豊かに見えるんだけど、栄養のないこの土地は決して「豊か」ではないのだという話が繰り返し出てきました。簡単に自然豊かと言われてしまう安易さに抵抗もあるのでしょう。農業が発展させられない地元民の生活の糧への模索も見え隠れしているにも感じられました。

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生きている木にもほかの植物があちこちで寄生しています。こちらはタカサゴガリゴケ

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木の枝にもぶら下がっています。こうして、なんにでもほかの生物が息づいて、なんでも呑み込んでしまうのです。

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橋の欄干にトンボを発見!黒いボディがシブい。

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そんな欄干の上にも植物が根を下ろしています。

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欄干を繋ぐ柱の上にも。水だけで生きるこの生命力。雨が多く、一年を通してコンスタントに水分が確保できていることもまたわかります。

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ガイドさんがザトウムシを見つけました。8本の脚のうち2本が長く、盲目の座頭のようにその脚をユラユラさせて行く先を探して歩くので、ザトウムシと呼ばれています。ふつうだと関心も持たない虫の世界も、ガイドさんの説明があると楽しい。

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私たちが連想する屋久島は、こんな風景ではないでしょうか。ガイドさんの話を聞いたあとでは、緑豊かというよりも引きずり込まれるような生命の息遣いのようなものを感じます。

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この大きな岩の上も平気で根を伸ばします。もし、下にあるものが腐敗したとしたら、支えを失って倒れるのがほかの森。でも屋久島では根の下を空洞にしたまま生き延びるのです。もしかすると、一番初めに見たくぐり栂はそのタイプだったかもしれません。

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こちらは杉を伐採したあとです。木の下の方は末広がりになっているので、できるだけまっすぐなところがほしい。そのため、足場を組んで上の方で伐採します。

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森林鉄道のところで土埋木という言葉を出しました。今も森林鉄道で土埋木を搬出していますが、土埋木というのはこうして倒れた木や、伐採したあと利用せずに放置していた木の残材のことを指します。屋久杉の伐採は今はもう許されていないので、工芸品はこうした土埋木を利用しています。

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どれぐらい昔の土埋木があるのでしょう?

私たちの知る御神木として扱われている杉は100年~300年といった年数ですが、台風などでそれらが倒れたというニュースを聞くことがありますね。それはもう寿命でもあるんです。でも、屋久島では樹齢千年以上を屋久、それ未満を小杉(こすぎ)と呼ぶぐらい、非常に寿命が長いです。なぜかというと、栄養のない屋久島では杉の成長がとても遅く、その分、樹脂が濃縮されて育つので脂が多く含まれ、千年を超えても生き延びることができるし、倒れて土埋木となってしまったとしても、腐敗しないのです。

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一度倒れても、こうしてまた立ち上がっていく屋久島の木々。栄養があってすくすく育っているのではない屋久島なのにヒメシャラの育ちがいいようで、これらをみていると決して庭木にしようとは思わないとガイドさん。(ヒメシャラ=別名ナツツバキ。庭木によく使われています)

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ほらだって、こんなに太い大木もあるんですよ。ヒメシャラは確かに落葉高木に位置付けられていますが、やはり杉と同じで、他所で見るよりも長い年月をかけて育っているのでしょう。

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そしてこれは、一度倒れかけたヒメシャラですが、実は上でほかの木に支えられ、生き延びているのでした。何にでも依存して何にでも寄生して生きていく。徐々に、その息遣いが聞こえてきそうな、なんとも言えないパワーに引きずり込まれそうな気配すら不気味に漂ってくるようでした。

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というのも、屋久島の山の標高は決して高くはないものの、遭難者は少なくないようで、行方不明者がいても探し出せない。そしてこんな植物に吞み込まれ、やがて根元が空洞の木を形成していたとしても誰にもわからない。富士の樹海のように、森の一部となっていっているかもしれない(キャーコワイー)・・・なんて話があったのですが、笑って聞き流せない雰囲気が確かにここにはあるのです。

そんな魔物も潜んでいそうな神秘の世界、さらに少し続きます。

次回記事はこちら。

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