2023年(令和5年)4月
新しいお店を開拓しようと思いつつ、なかなか重い腰が上がらなかったある日、一休レストランから案内メールが届きました。今まで定休日だった土曜日にも開けるので、しばらく安くコース料理を提供しますという内容。どうやら、どなたかからお店を引き継ぎ、新装開店中のお店のよう。評判も悪くなさそうだし、予約してみました。
東銀座か新橋から徒歩5分、銀座からは7分という場所。秋に予約する予定が流れたままの天婦羅おばたを通り過ぎ、予約時刻より少し早く到着しました。
強風で傘が飛ばされてしまいそうなこの日、予約していなければ外には出たくないぐらいでした。いいお店だと嬉しいのだけど。
地下のお店はハードルが高いといつも思います。コートを脱ぐ際に手摺りに掛けた傘が強風で滑り落ち、それに気づいた和服姿の女将が出迎えてくれました。
予約したのはカウンター席。きれいに磨き上げられた鍋類が積み上げられています。
カウンターの向こうのドアは個室。お客さまは入口から別のルートを通って部屋へ入るので、私たちには気配しかわかりません。
スタートはコース特典の選べるワンドリンクで、生ビールから。親方が「今日はカウンターは貸し切りにしてありますから」とおっしゃる。感染症対策のため、カウンターは一組だけしか通していないそうです。2人で申し訳ない。
まずは前菜から。女将がひとつずつ説明してくれました。桜の季節をイメージした盛りつけだけれど、ちょっと紙製の葉っぱは余分じゃないかしら。
右側が上から、本マグロしぐれ煮、芹白和え、三陸産赤海鼠、米粉で揚げた空豆。
本マグロのしぐれ煮は、一口でいただくには大きくちょっと困りました。量は多めでお酒よりもむしろご飯がほしくなるような一品。空豆が美味しかったかな。でも繰り返すけれど、この子どもの手づくりのような葉っぱはどう考えても不要な気がするのだけど(苦笑
真ん中の桜の下には、鯛のさくら鮓。桜の葉で包まれたお寿司です。桜の葉は食べても食べなくてもお好みで、とのこと。
左側は、富山産ホタルイカ、白ばい貝旨煮。どれもふつうに美味しくいただきました。
続くお造りは、塩釜の本まぐろ、青森の平目。
山形のうるいと御殿場の山葵が添えられています。山葵といえば、伊豆や安曇野が有名ですが、お味は伊豆が格段に上だと板さんがおっしゃっていました。土壌の問題なんでしょうかね。香りも全然違うと。
日本酒は生酒でお願いすると、山口県下関市長州酒造の天笑 純米吟醸うすにごり生原酒を選んでいただきました。女将は利き酒師と日本ソムリエ協会認定ソムリエ、SAKE DIPLOMAも持つエキスパート。
酒器は富山の錫製品、能作のもの。お猪口は富士山です。ひっくり返すと富士山になるだけでなく、底部分の噴火口を利用して内側にも小さな富士山が造られているという秀逸なお猪口。
厨房では火が起こされています。
よく見ると炭火。何が炭火焼で提供されるのか楽しみ。
続くお椀が運ばれて来ました。
明石の鯛を使ったお吸い物です。柚子が効いています。
次の日本酒は和歌山県海南市平和酒造の紀土-KID-シリーズから無量山 純米吟醸。
焼物 鰆の味噌柚庵焼きに山椒昆布が添えられています。
皮目には、板さんが包丁で切り目を入れていました。お箸でいただくときに食べやすくするためのひと手間。カウンター仕事だからこそ見られる職人の細かな配慮です。
炊合せが登場。
対馬の穴子、亀岡の筍、京都の生麩にワカメと蕗。親方は京都の出身、板さんは奇遇にも最近私が通っている安曇野の方で、なにかと縁を感じるお店でした。
続々と飲み進む日本酒。三輪といえば奈良の三輪素麺で有名な地ですね。桜井市今西酒造のみむろ杉-ろまんシリーズ-純米吟醸山田錦へと進んでいます。
河豚の唐揚げ
ここからは、にぎりずしを握っていただきます。元が寿司割烹だったことから、お寿司は残してほしいという話だったとレビューに書いてありました。
まずはホウボウ。スダチを利かせてあります。
銚子の金目鯛
真鰺
まだいただく日本酒。北海道から上川大雪酒造の北海道産吟風100%を使用した上川大雪緑丘蔵は、原料に北海道産のみを使用した純米酒です。
北海道産帆立
最後は大トロです。
お味噌汁をいただいて食事は終了。どれも本当に美味しくいただきました。でも敢えて言うなら、どれも印象に残らないんです。なぜなんだろう?お寿司も「お寿司」を食べたという印象がないのです。酢飯のせい???山葵の利かせ方?
デザートは、メロンといちご。フルーツで終了というのもいいですね。
そして、メロンにとても合うということで、女将からの差し入れのお酒をいただきました。富山市桝田酒造店の貴造酒 満寿泉。貴腐ワインと同じく甘い日本酒です。まさにメロンを思わせるお味。
女将との会話も楽しんだし、落ち着いた板さんの所作もよかったです。ただ、親方は銀座というよりは下町が似合う飾り気のなさで、お人柄はいいのだけれど道具の扱いなどにスマートさに欠け、地域柄違和感かも・・・
「わかな」12,000円×2+日本酒4合2300×4+チャージ10%920-一休ポイント480円=33,640円
片隅といえども銀座で、これだけいただいてこのお値段。充分お得だったと思います。でも、なぜか印象に残らないのはたぶん、近ごろお泊まりが多く旅館の食事に似ているからじゃないかという結論になりました。どこも工夫を凝らし独自性を演出している中で、ごくごく王道というところが普通過ぎたんじゃないかと。
最後のお土産は、まさかのチロルチョコレート入り。うーん・・・大阪的にはOK。でも、これが銀座での独自性というなら、ちょっと違うような。
気軽に行ける銀座のお店という点では、決して悪くないと思います。お目出たいお席を設けていたという個室の方には鯛のお頭の煮つけを出されるなど、フレキシブルな対応もしていただけます。一度お試しあれ。